写真;公式HP引用
系統用蓄電池のアグリゲーター(エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス:ERAB)は、脱炭素社会の進展に伴い、日本の電力市場で急速に注目を集めている極めて専門性の高い分野です。
事業として参入するための仕組みと、そこで活躍するための個人としての要件を整理して解説します。

1. アグリゲーターになるための「制度的要件」
まず、法人としてこの事業を行うには、以下の2つの立ち位置のいずれか(または両方)として登録・認可を受ける必要があります。
- リソースアグリゲーター(RA): 需要家と直接契約し、蓄電池などのリソースを制御する。
- アグリゲーションコーディネーター(AC): 複数のRAを束ね、送配電事業者や小売電気事業者と直接取引を行う。
必要な登録・手続き
- 特定卸供給事業者の届出: 2022年より施行された改正電気事業法に基づき、経済産業大臣への届出が必要です。
- ERABサイバーセキュリティガイドラインへの適合: 遠隔制御を行うため、厳格なセキュリティ対策が求められます。
- 市場への参加資格: 日本卸電力取引所(JEPX)、需給調整市場、容量市場への参加登録が必要です。
2. 求められる「経歴・実績・資格・人間性」
個人としてアグリゲーターとして成功、あるいはリーダーとして起業する場合のプロファイルです。
理想的な経歴と実績
- 経歴: 電力会社、新電力、総合商社、またはエネルギーテック企業での勤務経験。特に「電力需給管理」や「市場運用(トレーディング)」の経験は必須級です。
- 実績: * VPP(仮想発電所)の実証事業への参画。
- JEPX(スポット市場)での入札・運用経験。
- 蓄電池の制御アルゴリズム開発やプロジェクトマネジメント。
役立つ資格
必須資格はありませんが、以下の知識・資格があると非常に有利です。
- 電気主任技術者(電験二種・三種): 系統連系や設備の技術的理解に不可欠。
- エネルギー管理士: 省エネ法やエネルギー効率の知識。
- データサイエンス関連(Python/統計): 蓄電池の充放電最適化アルゴリズムを理解・構築するために重宝されます。
必要な人間性(マインドセット)
- 緻密さと柔軟性: 1分単位の需給バランスを扱う「緻密さ」と、天候や市場変動に即応する「柔軟性」の両立。
- リスクテイクの姿勢: 市場価格の変動リスクを背負いながら収益を最大化する判断力。
- ネットワーキング力: 官公庁(経産省)のルール形成に精通し、他社とのアライアンスを組む力。
3. 日本のアグリゲーター企業「稼いでいる」トップ5
現在、系統用蓄電池の運用実績や市場での存在感、収益基盤の強さから見たランキングです。
| 順位 | 企業名 | 特徴・強み |
| 1位 | 株式会社エナリス | KDDI・電源開発(J-Power)連合。日本のアグリゲーターの先駆けで、圧倒的なリソース数と運用ノウハウを持つ。 |
| 2位 | 自然電力(Shizen Connect) | SaaS型プラットフォーム「Shizen Connect」を提供。最新のAI制御技術に強く、国内外の蓄電池メーカーとの連携が迅速。 |
| 3位 | 東京電力エナジーパートナー | 国内最大級の顧客基盤と電力網への深い理解。大規模な系統用蓄電池プロジェクトを複数進行中。 |
| 4位 | 東芝エネルギーシステムズ | 自社の制御技術「Next-Craft」を武器に、自治体や大手企業向けのVPP構築で高い実績を誇る。 |
| 5位 | 三菱商事 / 三菱商事エナジーソリューションズ | 圧倒的な資金力を背景に、自社で大型蓄電池資産を保有(アセット保有型)しつつ、運用益を得るモデルで強硬。 |
4. アグリゲーターの年収はどれくらい?
アグリゲーター企業で働く専門職の年収は、一般的な電力会社やIT企業よりも高く設定される傾向にあります。
- 若手〜中堅(実務担当):600万円〜900万円
- 需給管理やデータ解析の実務。
- シニア・専門スペシャリスト:1,000万円〜1,500万円
- 電力市場のトレーダー、制御アルゴリズムのリードエンジニアなど。
- 事業開発・役員クラス:1,500万円〜2,500万円以上
- 新規事業立ち上げや、大規模な投資スキームの構築。
【稼ぐためのポイント】
単なる「設備の管理」ではなく、市場のボラティリティ(価格変動)を利用して「いつ充電し、いつ放電すれば最も利益が出るか」を最適化できるスキルが、年収に直結します。

アグリゲーターとして活躍するトップ企業の具体的な業績や、彼らが主戦場とする電力市場での「稼ぎ方」について深掘りして解説します。
1. トップ5企業の業績と事業規模(2025年最新状況)
アグリゲーター事業単体の売上を公表している企業は少ないですが、各社の注力状況と市場シェアから推計される規模感は以下の通りです。
| 順位 | 企業名 | 推定・目標事業規模 | 主な収益源の特徴 |
| 1位 | エナリス | VPP関連売上:百億円規模 | 日本最大級の管理リソース(約100万kW超)を背景にした、委託運用手数料と市場利益のシェア。 |
| 2位 | 自然電力 | 2030年目標:数百億円規模 | 自社開発SaaS「Shizen Connect」のライセンス収入と、アセット運用の成功報酬。 |
| 3位 | 東京電力EP | 新エネルギー部門:数千億円(目標) | 自社保有の巨大な顧客基盤(DR:デマンドレスポンス)を活かした容量市場での圧倒的シェア。 |
| 4位 | 東芝エネルギーシステムズ | VPP事業売上目標:210億円 (2025年) | ドイツの合弁会社と連携した高度な予測アルゴリズムによる、需給調整市場での高い約定率。 |
| 5位 | 三菱商事グループ | 投資総額:数千億円規模 | 資産保有(アセットオーナー)としての売電・調整力収入と、商社流のトレーディング利益。 |
2. アグリゲーターが稼いでいる「3つの市場」と売買の特徴
蓄電池アグリゲーターは、主に以下の3つの市場をパズルのように組み合わせて収益を最大化しています。
① 卸電力市場(JEPX):kWh(電力量)の価値
「安く買って高く売る」の基本市場です。
- 稼ぎ方: タイムシフト(裁定取引/アービトラージ)
- 売買の特徴:
- 買い(充電): 太陽光発電が余る昼間(0.01円/kWhになることも)に充電。
- 売り(放電): 需要が高まる夕方や、冬・夏のピーク時間帯に放電。
- ポイント: 市場価格をAIで予測し、充放電の「回数」と「タイミング」を最適化して利ざや(スプレッド)を抜きます。
② 需給調整市場:ΔkW(調整力)の価値
電力系統の周波数を一定に保つための「予備力」を提供する市場です。
- 稼ぎ方: ΔkW(デルタキロワット)報酬
- 売買の特徴:
- 待機報酬: 実際に充放電しなくても「指示があればすぐに動けます」と待機しているだけでお金がもらえます。
- 特徴的な商品: 「三次調整力②」など、応答速度に応じた枠があります。
- ポイント: 蓄電池はガスタービン発電機より応答が速いため、非常に有利です。ただし、SOC(蓄電残量)管理が極めて難しく、アグリゲーターの腕の見せ所です。
③ 容量市場:kW(供給力)の価値
将来(4年後など)の供給力を確保しておくための市場です。
- 稼ぎ方: 容量固定費の回収
- 売買の特徴:
- 固定収入: オークションで決まった価格(例:約1.4万円/kW・年など)が、数年間にわたって安定的に支払われます。
- ポイント: アグリゲーターにとっては「最も確実なベース収入」となります。夏・冬のピーク時にしっかり放電できる能力を維持することが条件です。
3. アグリゲーター独自の「稼ぎのテクニック」
トップ企業はこれらを単独で行うのではなく、**「マルチユース運用」**と呼ばれる手法で稼いでいます。
- 午前中: 容量市場の要件を満たしつつ、JEPXの安値で充電。
- 日中: 需給調整市場の「下げ調整(充電)」枠に応札し、系統の余剰電力を引き受けて報酬を得る。
- 夕方: JEPXの高値で放電し、同時に「上げ調整(放電)」枠でも稼ぐ。
単純な「安値買い・高値売り」だけでは、蓄電池の減価償却費をまかなうのが精一杯です。トップ5社は、「市場価格予測」「インバランス回避(予測外れのペナルティ防止)」「複数市場への同時最適応札」**をシステムで自動化することで、利益率を底上げしています。
[ここがプロの差]
これまでに解説した指標(ビジネスモデル、稼ぎ方、強み、組織文化)に基づき、日本のアグリゲーション業界を牽引する3社を詳細に比較します。
各社は同じ「アグリゲーター」という枠組みに括られますが、その実態は「IT・サービス業」「不動産・開発業」「垂直統合型ベンチャー」ほどに色が異なります
3社の詳細比較一覧
| 比較指標 | しろくま電力 | パシフィコ・エナジー | エナリス |
| ビジネスモデル | 垂直統合型(アセット保有) | 超大型開発型(デベロッパー) | プラットフォーム型(コーディネーター) |
| 主な収益源 | 市場取引益、自社開発報酬、売電 | 開発成功報酬、AM手数料、市場利益 | システム利用料、運用代行手数料 |
| 強み・武器 | スピード、EPC(施工)の内製化 | 圧倒的な資金調達力、大型土地開発 | 巨大な顧客基盤(KDDI連合)、先行知見 |
| 蓄電池の立ち位置 | 自社資産として保有し、利益を最大化 | 投資対象としての「巨大インフラ」 | 他社のリソースを束ねる「制御対象」 |
| 組織の性格 | 「新時代の挑戦者」 (泥臭さとIT) | 「百戦錬磨のプロ投資集団」 | 「電力市場のインフラ・頭脳」 |
| 主戦場 | 長期脱炭素電源オークション、JEPX | ギガワット級の大型案件、容量市場 | VPP、需給調整市場、小売支援 |
1. しろくま電力: 圧倒的スピードの「垂直統合ベンチャー」
しろくま電力(旧afterFIT)は、土地の仕入れから建設、運用、電力の販売までを自社ですべて完結させる**「全部自分たちでやる」**スタイルです。
- 稼ぎの特徴: 仲介手数料を払わず、自社で開発した蓄電池から得られる「市場利益」を丸ごと手に入れるため、利益率が高いのが特徴です。
- ここが凄い: 制度が変わった瞬間に数千億円規模の入札(LTDA)に踏み切るなど、経営判断が極めて速い。
- 向いている人: 現場の泥臭い仕事から、最先端のデータ分析まで、一気通貫で「事業を作っている感」を味わいたい人。
2. パシフィコ・エナジー: 規模で圧倒する「グローバルデベロッパー」
パシフィコは、1件あたりの規模が桁違いに大きい「メガプロジェクト」のプロ集団です。
- 稼ぎの特徴: 数百億円、数千億円という資金を世界中の投資家から集め、巨大な発電所や蓄電池所を建設し、その開発報酬や管理料で稼ぎます。
- ここが凄い: 「補助金がなくても市場で勝てる」という冷徹かつ緻密な投資判断。日本最大の太陽光開発実績という信頼感。
- 向いている人: 金融(プロジェクトファイナンス)の知識を活かし、国家規模のインフラ開発に関わりたい人。
3. エナリス: 信頼と技術の「マーケット・コーディネーター」
KDDIグループの一員として、膨大な数の家庭用・産業用リソースを束ねる「情報のハブ」です。
- 稼ぎの特徴: 自社で巨大な電池を建てるリスクを負うよりも、既存の電力消費者(工場や家庭)が持つリソースを「賢く制御する」ことで手数料を得る、安定感のあるITモデルです。
- ここが凄い: 日本でVPP(仮想発電所)という言葉が広まる前からこの分野を手掛けており、経産省などのルール形成にも深く関わっています。
- 向いている人: AIや通信技術を駆使して、社会全体の電力網を最適化する「仕組み作り」に興味がある人。
結論:どの指標で選ぶべきか?
「安定した固定報酬」を重視するなら:長期脱炭素電源オークション(LTDA)で大量の枠を確保したしろくま電力の将来性は非常に堅実です。
「純粋な市場利益(トレーディング)」で稼ぎたいなら:自社アセットを持ち、ダイレクトに市場へ挑むしろくま電力やパシフィコ・エナジーが面白いでしょう。
「ITプラットフォームや制度設計」で稼ぎたいなら:多種多様なリソースをシステムで繋ぐエナリス(または自然電力)が王道です。



コメント